大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山口地方裁判所 平成3年(行ウ)4号 判決

原告

光永章典(X)

被告

宇部市固定資産評価審査委員会(Y)

右代表者委員長

伊勢本勉

右訴訟代理人弁護士

平岡雅絋

事実及び理由

第三 当裁判所の判断

一  争点1(本件固定資産評価の適否)について

1  固定資産評価基準は、地方税法三八八条一項に明文の根拠を有する告示(昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号)であって、同法四〇三条一項は「市町村長は、・・固定資産評価基準によって、固定資産の価格を決定しなければならない。」と規定していることや、このような文言に改正された経緯を併せ考えると、固定資産評価基準は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施方法及び手続についての地方税法の規定を補充する法的拘束力を有するものと解されるのであり、固定資産税の課税標準の基礎となる価格の決定権者である市町村長は、かかる法規範たる固定資産評価基準に従って価格の決定をすべき法的義務を負い、その反面、固定資産評価額の決定が、固定資産評価基準によりその適正な運用のもとにされたものである限り、その決定は適法なものであるというべきである。したがって、本件固定資産評価が適法であるか否かは、本件山林の評価が固定資産評価基準によりその適正な運用のもとにされているか、すなわち固定資産評価基準に従ってなされているか否かにかかっているということができる。

固定資産評価基準による山林の固定資産の評価方法は、次のとおりである〔証拠略〕

(一)  山林の評価は、各筆の山林について評点数を付設し、当該評点数一点当たりの価額に乗じて各筆の山林の価額を求める方法による(固定資産評価基準第1章第7節一)。

(二)  山林の評点数の付設は、次の順序によっている(固定資産評価基準第1章第7節二1)。

(1) 状況類似地区を区分するものとする。

(2) 状況類似地区ごとに標準山林を選定するものとする。

(3) 標準山林について、売買実例価額から評定する適正な時価に基づいて評点数を付設するものとする。

(4) 標準山林の評点数に比準して、状況類似地区内の各筆の山林の評点数を付設するものとする。

(三)  右の状況類似地区は、地勢、土層、林産物の搬出の便等の状況を総合的に考慮し、おおむねその状況が類似していると認められる山林の所在する地区ごとに区分するものとする。この場合において、状況類似地区は小字の区域ごとに認定するものとし、相互に当該状況が類似していると認められる小字の区域は、これらを合わせ、小字の区域内において当該状況が著しく異なると認められるときは、当該状況が異なる地域ごとに区分するものとする(固定資産評価基準第1章第7節二2)。

(四)  右の標準山林は、状況類似地区ごとに、位置、地形、土層、林産物の搬出の便等の状況からみて比較的多数所在する山林のうちから、一の山林を選定するものとする(固定資産評価基準第1章第7節二3)。

(五)  標準山林の評点数は、次によって、山林の売買実例価額から評定する当該標準山林の適正な時価に基づいて付設するものとする(固定資産評価基準第1章第7節二4)。

(1) 売買の行われた山林(以下「売買山林」という。)の売買実例価額について、その内容を検討し、正常と認められない条件がある場合においては、これを修正して、売買山林の正常売買価格を求めるものとする。

(2) 当該売買山林と標準山林の位置、地形、土層、林産物の搬出の便等の相違を考慮し、(1)によって求められた当該売買山林の正常売買価格から標準山林の適正な時価を評定するものとする。

(3) (2)によって標準山林の適正な時価を評定する場合においては、基準山林との評価の均衡及び標準山林相互間の評価の均衡を総合的に考慮するものとする。

(六)  各筆の山林の評点数は、標準山林の単位地積当たり評点数に「山林の比準表」(別表第7)により求めた各筆の山林の比準割合を乗じ、これに各筆の山林の地積を乗じて付設するものとする。この場合において、市町村長は、山林の状況に応じ、必要があるときは、「山林の比準表」について、所要の補正をして、これを適用するものとする(固定資産評価基準第1章第7節二5)。

2  そこで、本件固定資産評価が、固定資産評価基準に従ってなされているか否かについて検討するに、〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

(一)  固定資産評価基準は、昭和三八年に改訂、告示され、昭和三九年度の固定資産の評価から適用されることになった。

(二)  宇部市では、従来、山林の評価については賃貸価格に一定の倍数を乗じて評価額を算出していたが、評価基準の改訂に伴い、正常売買価格により評価額を算出するよう昭和三七年から実施準備を開始し、その際、機構について、土地、家屋については所要人員につき、三三名から四七名に増員した。

さらに、宇部市長は、山林の固定資産評価の上で、状況類似地区の区分、標準山林の選定、各筆の山林の評点数の付設等について、林業に精通した者の協力を得る必要があるので、固定資産評価補助員(地方税法四〇五条)として農林水産課技術吏員二名を任命し、山林の固定資産評価に当たらせた。

(三)  昭和三九年度の固定資産評価の状況

(1) 状況類似地区の区分については、地形図で山林地帯について稜線、標高、河川、沢、林産物の搬出道路等を明確にし、これらの状況を前提として、状況が類似する地区を実地調査の上、状況類似地区として画定した。

本件山林の属する状況類似地区は、宇部市小野地区の北部に位置する山林であり、岩郷山とその北にある山林とで形成されており、岩郷山とその北にある山林とを谷線で区分することも考えられたが、双方とも厚東川と大田川(小野湖)にはさまれた地域で、山の小さな出入りは多いが、標高差も小さく、その地域内の土層、搬出道路の状況も検討したところ、右地区は、地形条件、経済条件に極端な相違がないので山林の生産力にも大きな差がないものと判断し、また、宇部市においては山林の売買実例がほとんどないことをも考慮して、一一七の小字を合わせて同一状況類似地区とした。この状況類似地区内には一一の林班が存在していて、面積は約二・〇五六平方キロメートルである。

(2) 本件標準山林は、専門家である農林水産課の技術吏員二名が中心となって山口県宇部市大字小野二ノ岩川一九〇五番地(一一八〇平方メートル)に決定した。その際、山麓・山腹・頂上のいずれであるか、山の傾斜角度、土層の厚さ等の自然条件や搬出道路までの距離等の経済条件を検討したところ、本件状況類似地区は山林の標高差が少なく、搬出道路までの距離にも極端な差異がないので、標準山林の状況を把握しやすいことをも考慮して、山腹低部に位置する本件標準山林を選定した。この標準山林は、本件状況類似地区の北東端近くに位置しており、同山林の東端から約二〇メートル離れたところを幹線道路(県道宇部秋芳三隅線)が通っているが、同山林中央部から右道路までの距離は約七、八〇メートルある(甲九六、乙一三)。

そして、昭和三九年度における本件標準山林一反(九九一平方メートル)当たりの評点数は、次のとおり一九七八点と定めた(なお、原告は、昭和三九年度の標準山林の評点数が正当であることについては明らかに争わない。)。

23(自然条件)×86(経済条件)×1(海抜)=1978

(3) 比準山林の評点数の付設について

宇部市においては、山林の標高差が小さく、また、山林が比較的小さいために、固定資産評価基準別表第7の「比準山林と標準山林の標高差(五〇メートルを単位)及び搬出道路の距離の相違(一キロメートルを単位)による補正欄」を適用してもほとんど補正がなされず、適正な補正がなされないと考えられたことから、幹線道路、支線道路の別を問わず、搬出道路から山林までの地図上で計測された一〇〇メートル単位の距離(いわゆる小出しの距離)による補正〔証拠略〕をすることにし、山林一筆ごとに山林評点調査票に小出しの距離と補正率が記入されたが、当時の山林の距離による補正表は現在紛失して現存していない(乙五は再生したもの)。そして、本件(一)(二)山林の小出しの距離は各三〇〇メートルで補正率が〇・九、本件(三)山林の小出しの距離は五〇〇メートルで補正率は〇・八七とされた。

(四)  本件山林の昭和六三年度固定資産評価額

(1) 宇部市税務課土地係は、昭和六三年四月一日付けの土地異動要項〔証拠略〕を作成し、昭和六三年度の固定資産評価額の計算方法を定めた。その中の山林の固定資産評価額の計算方法は、次のとおり記載されている。

比準割合=一・〇〇+(標高-一・〇〇)+(支線-一・〇〇)+(幹線-一・〇〇)

昭和三九年評点(標準山林の一反当たりの評点数)×比準割合=<1>  (小数点第一位四捨五入)

<1>×面積÷九九一=その土地の昭和三九年評点<2>(比準山林の評点数)(小数点第一位四捨五入)

<2>×五・六四一五(上昇率)=その土地の昭和六三年評価額(一点を一円で計算。小数点第一位切捨て)

しかしながら、前記のとおり、宇部市においては、市内に所在する山林の標高差がほとんどない上、山林が小さく、幹線道路と支線道路の区別も設けないことにしたため、比準割合としては幹線道路又は支線道路との距離(小出しの距離)だけを考慮して、前記(三)(3)記載のような比準割合(補正率)を算出して昭和六三年度の固定資産評価額を計算していた。

(2) 本件(一)山林の昭和六三年度の固定資産評価額

前記(三)(3)認定のとおり、本件(一)山林の比準割合は〇・九であり、地積が六万一七一九平方メートル(〔証拠略〕)であるから、前記(1)に従って計算すると、本件(一)山林の昭和六三年度固定資産評価額は六二万五四〇五円となる。

(3) 本件(二)山林の昭和六三年度の固定資産評価額

前記(三)(3)認定のとおり、本件(三)山林の比準割合は〇・九であり、地積が六万〇六二八平方メートル(〔証拠略〕)であるから、前記(1)に従って計算すると、本件(二)山林の昭和六三年度固定資産評価額は六一万四三四八円となる。

(4) 本件(三)山林の昭和六三年度の固定資産評価額

前記(三)(3)認定のとおり、本件(三)山林の比準割合は〇・八七であり、地積が一二万六三四〇平方メートル(〔証拠略〕)であるから、前記(1)に従って計算すると、本件(三)

山林の昭和六三年度の固定資産評価額は一二三万七七七八円となる。

(五)  本件山林の平成三年度の固定資産評価額

宇部市長は、昭和六三年度、平成三年度の山林の評価替えに当たって、宇部市において近年山林売買実例がほとんどないことや、全国的な山林売買状況等から、昭和六〇年度以降評価額を据え置くことを決定していた。したがって、平成三年度の山林の固定資産評価額は、昭和六三年度の(昭和六〇年度も同様)固定資産評価額と同額となる。

3  状況類似地区の区分について

(一)  前記のとおり、固定資産評価基準によれば、状況類似地区は、地勢、土層、林産物の搬出の便等の状況を総合的に考慮し、おおむねその状況が類似していると認められる山林の所在する地区ごとに区分され、この場合、小字の区域ごとに認定されるものであるが、相互に当該状況が類似していると認められる小字の区域はこれらを合わせ、小字の区域内において当該状況が著しく異なると認められるときは当該状況が異なる地域ごとに区分するものとされている(固定資産評価基準第1章第7節二2)。

(二)  本件状況類似地区の小字の数が一一七、林班の数が一一であることは前記認定のとおりである。しかしながら、固定資産評価基準によれば、相互に当該状況が類似していると認められる小字の区域は合わせて状況類似地区として区分することが許容されているものであるから、単に小字の区域ごとに区分されていないことだけから直ちに固定資産評価基準に違反したものとはいえない。問題は、地勢、土層、林産物の搬出の便等の状況が類似しているといえるか否かであるが、前記認定のとおり、本件状況類似地区は、宇部市小野地区の北部に位置する岩郷山とその北側にある山林とで形成され、厚東川と大田川(小野湖)にはさまれた標高差も小さく、山の小さな出入りの多い山林地域で、土層等の地形条件もおおむね類似していると認められる上、その地域内には林産物の搬出可能な道路もいくつか存在していて、林産物の搬出条件についてもおおむね類似していると認められるから、固定資産評価基準に違反したものとは言いがたい。

確かに、原告が主張するように、本件状況類似地区には一一七の小字と一一の林班が存在し、これは宇部市平均を大幅に上回っているようであるが、本件状況類似地区は、同市北部に位置し、全宇部市と比較すれば山林が密集し、開発の遅れた山林地域であることや(〔証拠略〕)、本件状況類似地区の大きさは、山口県下の他市と比較すれば、必ずしも極端なものではなく、同等の状況類似地区は多数存在することが窺われること(〔証拠略〕)などをも考慮する必要がある。

(三)  固定資産評価基準が、地勢、土層、林産物搬出の便等の状況を総合的に考慮して、おおむねその状況が類似していると認められる山林の所在する地区ごとに区分すべしとしているのは、基本的には山林の生産力を基準として区分することを考慮しているためと解されるが、その際には、後の比準割合の算出の過程において考慮される小出しの条件(千差万別であるので標高差で代表させて考慮)・支線道路の距離・幹線道路の距離以外の諸条件についての類似の有無を主として考察すべきものと考えられる。そして、右区分においては、状況類似地区を細分すればするほど比準評価事務はしやすくなるが、比準山林の評点数付設の事務量が増大し、逆に状況類似地区の区分を大まかにすれば、比準評価事務が複雑になり、評価の精度が落ちるおそれがあると考えられるが、右区分の判断は、行政全体を統括する市町村長のある程度の裁量に委ねられているものであって、右裁量の範囲を逸脱していると認められない限り、固定資産評価基準に違反していると断定することはできないと考えられる。また、山林の評価においては、農地や宅地と異なり、各筆ごとの土地について厳密に調査することは相当に困難であるし、同一状況類似地区内の経済条件の相違による価格差は農地や宅地におけるほど微妙でないこと、宇部市においては山林の売買実例がほとんどないことも考慮する必要がある。

したがって、このような諸般の事情を総合的に考慮して、宇部市長が、宇部市においては、原告のような小出しの距離が長いため固定資産評価基準別表第7を適用すると不利になる山林所有者が多くなるので適正を期して、同表第7に代えて山林の距離による補正表(〔証拠略〕)を作成・適用した上で、山の小さな出入りによるものは無視して大局的に判断し、やや広きに失すると考えられないでもない本件状況類似地区を画定したことには、ある程度の合理性がないわけではなく、直ちに固定資産評価基準に違反しているということはできない。

(四)  なお、本件状況類似地区の区分に当たり、林班図を参照したか否かについては必ずしも明確な証拠はないが(〔証拠略〕添付の自治省指示による計画案によれば、右区分に当たって、林班図の作成を計画していたことが窺われる。)、林班図を参照することは望ましいとしても、必ずしも適法性を備えるための必須の要件ではない。

(五)  そして、昭和三九年に本件の状況類似地区を区分してから、現在まで地形の変動等はなかったことが窺われるから、昭和三九年に区分した本件状況類似地区をそのまま維持したことは、固定資産評価基準に違反しないものというべきである。

4  標準山林の選定について

(一)  前記のとおり、固定資産評価基準によれば、標準山林は、状況類似地区ごとに、位置、地形、土層、林産物の搬出の便等の状況からみて比較的多数所在する山林のうちから、一の山林を選定するものとされている(固定資産評価基準第1章第7節二3)。そして、具体的には、標準山林は、状況類似地区内の山林のうち、<1>傾斜角度、斜面の型が標準的な山林、<2>表土や全土層の厚さが中庸な山林、<3>林産物の小出しの条件が標準的な山林すなわち山林の中央部とその搬出地点との標高差が中庸なもの、<4>支線道路までの距離が中庸な山林、<5>幹線道路までの距離が中庸な山林、といった観点からみて、最も標準的な山林から選定されることが望ましいと解されるので、この結果、通常標準山林は、状況類似地区の中央部に位置し、状況類似地区内で最も多い林相を示す出林のうちから選定されることが多いものと考えられる。

(二)  なるほど、本件標準山林は本件状況類似地区の北東端近くに位置しており、山林東端の約二〇メートル離れたところを幹線道路(県道宇部秋芳三隅線)が通っていることは、前記認定のとおりであって、本来位置的には、本件状況類似地区の中央にある岩郷山付近に選定するのが望ましいというべきであろう。

しかしながら、前記認定事実や、本件標準山林はその中央部から搬出地点までの距離は約七、八〇メートル、中央部の標高は約八〇メートルで搬出地点までの標高差が約二〇メートルあること(〔証拠略〕)、本件状況類似地区内には岩郷山を除いては一〇〇メートル余りの小さな山の出入りが多く、いくつかの支線道路が存することからすると、本件標準山林は、前記(一)の選定に当たっての観点<1>ないし<3>の条件には一応適合しており、<4><5>についても、幹支線を問わず搬出道路までの距離として考えると、必ずしも中庸を大きく外れているわけではない。

そもそも、標準山林の選定は、市町村長の裁量にある程度委ねられているものであって、右裁量の範囲を逸脱していると認められない限り、固定資産評価基準に違反していると断定することは困難であると考えられる。固定資産評価基準は、前記のように抽象的に規定するだけであり、前記<1>ないし<5>の観点の多くに相当程度適合しており、また、前記のように、原告のような小出しの距離が長い山林所有者のことを配慮して、固定資産評価基準別表第7に代え山林の距離による補正表(〔証拠略〕)を作成・適用していることなどを考えると、本件標準山林の選定が固定資産評価基準に反しているとはにわかには言いがたい。

(三)  そして、状況類似地区が昭和三九年に区分されてから平成三年度まで、大きな自然条件、経済条件の変動等がなかったため、本件標準山林も選定替えされることなく維持されてきたのであるから、平成三年度においても固定資産評価基準に違反するとはいえないといわなければならない。

よって、原告の標準山林の選定における違法の主張は理由がない。

5  比準山林の評点数の付設について

(一)  比準割合の補正について

前記のとおり、固定資産評価基準によると、各筆の山林の評点数は、原則として、標準山林の単位地積当たり評点数に「出林の比準表」(別表第7)により標高差及び搬出道路の距離の相違による補正をして求めた各筆の山林の比準割合を乗じ、これに各筆の山林の地積を乗じて付設するものとされているが、市町村長は、山林の状況に応じ、必要があるときは、「山林の比準表」について、所要の補正をして、これを適用するものとされている。

前記のとおり、本件においては、宇部市の山林は標高もあまり高くないため別表第7の標高差による補正がほとんど得られず、また搬出道路の距離の相違による補正も一キロメートルを単位とするものでこの補正もほとんど得られないので、状況類似地区を広くとったことをも考慮して、昭和三九年に固定資産評価基準の例外措置を採用して、多くの場合別表第7を適用するよりも納税義務者により有利となる、一〇〇メートル単位の山林から道路までの距離による補正(〔証拠略〕)を行って、比準割合を決定したものである、宇部市長の行った右比準割合の補正は、固定資産評価基準に従ってその認容する例外措置を採用したものであって、固定資産評価基準に決して反するものではないし、本件山林についての具体的適用についても違法な点は認められない。

なお、山林評点調査票(〔証拠略〕)の上段に記載してある中山川平三六〇四の一の支線道路までの距離が三〇〇メートルとなっていて、右距離の記載の正確性に疑問がないわけではないが、そもそも右土地の正確な位置が明確でない上、仮に瑕疵とみる余地があるとしても、原告は本訴において自己の法律上の利益に関係のない事項を取消理由として主張できないものである(行政事件訴訟法一〇条一項)(右の点が争点とされていなかったため明確ではないが、右土地の北方の小道までの距離を計測した可能性もあろうか。)

(二)  本件山林の評点数の付設について

平成三年度の本件山林の固定資産評価額が、昭和三九年度の本件山林の評点数(否定資産評価額)に上昇倍率を乗じて算定されたものであることは、前記認定のとおりである。

しかしながら、昭和三九年以降、区分された本件状況類似地区及び選定された本件標準山林の変更がなく、しかも周囲の標高差及び搬出道路の状況もほとんど変更がないため、平成三年においても、昭和三九年に決定された本件山林の比準割合が変更されなくとも、違法とはいえない。

そうすると、原告は平成三年度の本件標準山林の評点数の付設及び評価額が正当であることは争わないので、宇部市長の行った本件山林の評点数の付設も、結局は適法なものといわなければならない。

6  以上のとおり、本件山林の固定資産評価は、必ずしも固定資産評価基準に従わないものであるとはいえず、適法なものであるといわざるを得ない。

二  争点2(本件固定資産評価額の決定における手続違反)について

1  実地調査(地方税法四〇八条)の不実施について

地方税法四〇八条は、「市町村長は、固定資産評価員又は固定資産評価補助員に当該市町村所在の固定資産の状況を毎年少なくとも一回実施に調査させなければならない。」と規定して年一回の実地調査をすべき旨定めており、この規定を単なる訓示規定と解するのは相当でないから、市町村長は、年一回の実地調査をさせなければならないものというべきである。これを本件についてみると、〔証拠略〕によれば、宇部市においては、通常の年度には地目変更、地積更正、分筆等についての実地調査のみを行い、三年に一回(評価替えの前年度)だけ宇部市内全域にわたって山林の状況変化を見分しているにすぎないことが認められるので、宇部市長は、右規定に違反しているものといわなければならない。

しかしながら、右規定の趣旨は、固定資産の実情を的確に把握して適正な価格の評価を可能にするための一つの手段として規定されたものと解されるところ、宇部市長は右程度の実地調査は行っていること、山林の状況の変動は通常少ないものであって、本件山林についてもその状況はほとんど変動していない上、前記判示のとおり本件固定資産評価自体が実体法上違法とはいえないこと等を勘案すれば、地方税法四〇八条に定める適式の実地調査を欠いたからといって、本件固定資産評価自体が違法として取り消されるべき事由があるというわけではないから、原告の主張を採用することはできない。

2  固定資産課税台帳等の備付け違反について

山林に関して、宇部市が固定資産課税台帳は備えているものの、地籍図、山地図等を具備していないことは当事者間に争いがない。

山口県において山林の地籍図が存しないことには歴史的な経緯があり、現在宇部市においても、その整備に取り組んでいるようである(〔証拠略〕)。地方税法三八〇条二項に規定する「条例の定め」は、宇部市においては宇部市税賦課徴収条例四九条にあり、全面的に「規則」に委任しているところ(〔証拠略〕)、宇部市税賦課徴収条例施行規則には未だ何らの定めもなされていない(〔証拠略〕)ので、直ちに地方税法三八〇条二項及びこれから委任を受けた条例が命ずる資料不備の違反があるとは言いがたいが、宇部市は速やかに右規則で備え付けるべき資料を特定した上で備付け義務を規定して、必要資料の整備に務める義務があるものといわなければならない。原告の主張するように、宇部市が独自に実施している山林の距離による補正表(〔証拠略〕)が、現存しないなどということは杜撰の極みである。

しかしながら、地方税法三八〇条二項の趣旨は、固定資産の評価に必要な資料を整備していくことによって、適正な価格の評価が行われるようにすることを目的としていると解されるところ、前記判示のとおり本件固定資産評価自体が実体法上違法とはいえないことに鑑みれば、地方税法三八〇条二項に定める資料の整備が十分になされていないからといって、本件固定資産評価自体が違法として取り消されるべき事由があるというわけではないから、原告の主張を採用することはできない。

三  争点3(本件固定資産評価審査委員会における手続違反)について

1  審査委員会開催日の通知の不履行について

(一)  被告が、原告に対し、固定資産評価審査委員会の開催日を通知することなく、平成三年五月二九日に同委員会を開催したことは当事者間に争いがない。

(二)  地方税法四三三条一項によれば、審査の申出を受けた固定資産評価審査委員会は、その必要と認める調査、口頭審理その他の事実審査を行うことが規定され、同条二項によれば、審査申出人の申請があったときは、特別の事情がある場合を除き、口頭審理の手続によらなければならないとされている。

したがって、審査申出人の申請がなければ、口頭審理を行うか否かは固定資産評価審査委員会の裁量に委ねられていると解するのが相当である。そして、本件において、原告は口頭審理の申請をしていない(原告本人)のであるから、口頭審理を行うか否かは被告の裁量に委ねられているというべきである。そして、口頭審理を行わずに書面審理で審査する場合は、審査申出人の出頭は不要であるから、審査委員会の開催日を審査申出人に通知する必要はないと解するのが相当であり、本件においては書面審理で審査を行った(〔証拠略〕)ものであるから、審査委員会の開催日を通知する法律上の義務はなかったものと認められる。よって、審査委員会の開催日を原告に通知しなかったことは違法ではない。

これに対し、原告は、被告が「委員会の開催日が決定され次第後日通知する」旨の文書(〔証拠略〕)を送付したにもかかわらず、開催日の通知をしなかったことが市条例一一条二項、四項に違反する旨主張する。しかしながら、市条例一一条二項、四項の規定(〔証拠略〕)は、口頭審理が行われる場合のものであって本件には適用されないものであるから、原告の主張は採用できない。なお、被告が「委員会の開催日が決定され次第後日通知する」旨の記載をしたことは、審査手続を熟知していない一般市民である原告に、書面審理であっても審査委員会が開催される場合には通知してもらえるとの誤解を生じさせる余地があることは否定できず、適切な表現ではなかったというべきであるが、上記の記載をしたことをもって、委員会の開催日の通知をしなかったことが違法であるということはできない。

2  実地調査(地方税法四三三条、市条例一二条)の不実施について

(一)  被告が実地調査を行わなかったことは、当事者間に争いがない。

(二)  この実地調査は、地方税法四三三条一項に規定されている「その必要と認める調査・・、その他事実審査」に該当するものであると解される。そして、固定資産評価審査委員会は、この実地調査を必ず行わなければならないものではなく、必要と認めた場合にのみ行えば足りるものであり、その必要か否かについての判断が裁量を逸脱していると認められる場合に、実地調査の不実施が違法になるものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、本件山林の実地調査をしなかったのは、本件山林が合計二四万八六八七平方メートル(登記簿上)と広大であったこと、山林は現場に赴かなくても付近から見れば十分である上、本件山林付近には川があって近づきにくいこと、審査委員会から写真撮影と図面で十分である旨の指示がなされたことによるものであり、委員会当日(平成三年五月二九日)、事務局員が撮影してきた本件山林の写真と図面を委員に回覧したことが認められる(〔証拠略〕)。右の事実によれば、本件山林の固定資産評価の審査を行う上で、実地調査をしなかったことが、固定資産評価審査委員会の裁量を逸脱したものとは認められず、実地調査の不実施をもって違法ということはできない。

3  審査委員会の議事録、議事運営について

(一)  総務部長のあいさつについて

(1) 宇部市の総務部長が審査委員会において挨拶したことは、当事者間に争いがない。

(2) 固定資産評価審査委員会は、固定資産課税台帳に登録された事項に関する納税者の不服について審査決定するために設置されるもの(地方税法四二三条一項)であり、固定資産課税台帳に登録された事項を決定した市町村長とは異なる独立した判断機関であるから、その中立性及び手続の公正が確保されなければならないのは当然である。

しかしながら、本件における総務部長の挨拶の内容を検討すると、一般的に、抽象的に、儀礼的なものにとどまり、審査委員会の中立性、審査手続の公正を害するおそれのあるものではないと認められる(〔証拠略〕)。よって、本件における総務部長の挨拶は違法ではないと解するのが相当である。

原告は、中立的な機関であるべき固定資産評価審査委員会において、宇部市の総務部長が挨拶すること自体、その設置目的に違反するものであって地方税法四二三条に違反する旨主張するが、誤解を招くおそれがあり望ましいことではないとしても、その挨拶の内容を問わず、挨拶すること自体が一律に委員会の中立性や審査手続の公正を害し、違法となるものと解することはできない。

(二)  事務局(宇部市)に事案の説明をさせたことについて

(1) 審査委員会において、事務局である宇部市が事案の説明をしたことは、当事者間に争いがない。

(2) しかしながら、事案の説明自体は、本件山林の評価及びその決定手続についての客観的な事実関係の説明にすぎず、審査の内容に不当な影響を与えるものではないと考えられるし、地方税法四三三条は、固定資産評価審査委員会が必要と認める各般の調査、その他の審査を行うことを容認しているのであるから、右事案の説明をもって直ちに審査委員会の中立性及び手続の公正が害されるとはいえない。原告の主張は理由がない。

(三)  事務局(宇部市)の発言内容について

(1) 〔証拠略〕によると、事務局である宇部市は、「ここの標準地自体は小野の中で二番目に低い標準地で、一平方メートル当たりの単価九円は小野地区では低い。」との趣旨又はこれに近い内容の発言をしたことが認められる。

(2) しかしながら、この審査委員会においては、原告の審査申出書(〔証拠略〕)、宇部市長の答弁書(〔証拠略〕。これには、本件山林の一〇〇〇平方メートル当たりの価額である一万〇一三三円及び九七九七円が記載されている。)、原告の弁ばく書(〔証拠略〕)、宇部市長の再答弁書(〔証拠略〕)、原告の弁ばく書(第二回)(〔証拠略〕)、本件山林の写真及び図面が出席委員に配付され、内容が説明されていたこと、本件標準山林の価額は実際に小野地区で二番目に低いことが認められる(〔証拠略〕)。そうであれば、事務局(宇部市)の発言が仮に前記(1)のとおりの発言内容であったとしても、おおむね正確であるし、その発言趣旨は、「本件出林中には一平方メートル当たりの単価が九円前後のものがあるが、これは小野地区では低い部類に入る。」というものであったと解され、かつ、容易にその趣旨を的確に把握できるものと認められるから、事務局(宇部市)の発言を違法なものと断定することはできない。原告の主張は採用できない。

(四)  委員長及び各委員の発言内容について

(1) 〔証拠略〕によると、平成三年五月二九日の審査委員会において、被告委員長が「評価基準の手順を踏まえての評価額であり、異議申出の出る金額でもないと思うが、皆さんの意見は。」と述べ、「事務局の決定とおりでよいのではないか。」と委員全員が賛成したことが認められる。

(2) しかしながら、この記載は、原告の提出した弁ばく書等を配付説明した上、被告において審理を行った後に出された、原告の主張を採用しないとの審査の最終的な結論の要旨を記載したものであると認められるのであり(〔証拠略〕)、この記載をもって、審査委員会において何らの審議もされなかったということはできない。原告の主張は採用できない。

(五)  平成三年五月二九日開催の固定資産評価審査委員会の議事録の不備について

原告の主張する市条例一一条八項の規定は口頭審理の調書に関するものであって、そもそも本件のような書面審理の調書には適用されないものであるから、市条例一一条違反に関する原告の主張は採用できない。

また、原告は、議事録に作成年月日及び委員会の名称の記載や契印がされていないこと(宇部市固定資産評価審査委員会規程八条違反)を主張する。しかしながら、審査委員会の議事録として提出されている〔証拠略〕によれば、作成年月日や委員会の名称の記載があることは認められるし、契印の有無は判然としないが、仮に契印がなかったとしても、それだけで本件審査決定が取り消されるべき瑕疵には当たらないというべきであるから、いずれにしても、原告の主張は採用できない。

四  本件審査決定書の理由不備ないし不告不理の原則違反について

1  〔証拠略〕によると、次の事実が認められる。

(一)  原告の本件審査申出の趣旨及び理由の要旨は、次のとおりであった。

(1) 申出の趣旨としては、本件山林の固定資産評価額を二分の一程度に補正してほしい。

(2) 本件状況類似地区は、地勢、林産物の搬出の便の観点から状況類似性に甚だ疑問があり、本件標準山林の所在する地域と本件山林の所在する地域とは、異なる地区として区分すべきである。

(3) 本件山林の比準割合について、「山林の比準表」(固定資産評価基準別表第7)に所要の補正をしたものを適用してほしい。

(二)  これに対し、本件審査決定は、次のように理由を記載して、原告の申出を棄却した(〔証拠略〕)。

(1) 状況類似地区の区分について、小字ごとに認定するものとあるが、これは小字の数、現況確認等から考えて不可能と考えざるを得ない。

(2) 各筆の山林の評点数の付設については、標準山林一〇〇〇平方メートル当たり一万一二五八円のところを、本件(一)山林及び本件(二)山林については〇・九の補正(距離による減点)をして一〇〇〇平方メートル当たり一万〇一三三円、本件(三)山林については〇・八七の補正(距離による減点)をして一〇〇〇平方メートル当たり九七九七円としており、標高差による補正には該当しない。

(3) 本件山林の評価額は、宇部市大字小野字二の岩川一九〇五番を標準山林とし、これに比準し、林産物の搬出等を考慮して、地方税法三八八条一項の固定資産評価基準に従って算出されており、小野地区における山林評価額の平均からは、かなり低い評価額となっている。

また、近年の山林の地価動向から、その評価額は昭和六〇年度以降据え置かれている。

これらのことから、客観的に評価は適切なものと判断したものである。

(三)  なお、宇部市長が提出した再答弁書(〔証拠略〕)には、本件山林の比準割合の補正について、標高差による補正及び幹線道路の状況による補正(固定資産評価基準別表第7の補正)はせず、支線道路の状況による補正だけを行っていることは記載されているが、その具体的な根拠は記載されていない。

2(一)  固定資産の評価に関する審査決定の理由附記について、地方税法四三三条七項は、特に行政不服審査法四一条一項の規定の準用を明記していないけれども、審査請求の性質等からみて、相当の理由を附することを要するものと解するのが相当である。ただし、固定資産評価審査委員会は審査申出を受けた日から三〇日以内に審査の決定をしなければならないこと(地方税法四三三条一項)、固定資産評価審査委員会の構成員につき、特に固定資産税に関する専門的知識を有する者に限定していないこと(地方税法四三三条三項、四二六条)などを考慮すると、右相当の理由とは、一般的には審査申出人が決定の結論に至る概略が分かれば足りるものであり、詳細な理由までは不要であると解するのが相当である。これを本件についてみると、前記本件審査決定の理由において、本件山林の固定資産評価額の算定に至る概略を具体的に知り得る程度の数値及び根拠が記載されているものであるから、理由不備には当たらないものというべきである。

(二)  次に、本件山林についての原告の審査申出の理由に対する本件審査決定の理由は、必ずしも噛み合ったものとはいえないようにも思われ、原告は、そこを指摘して不告不理の原則に反していると主張する。しかしながら、不告不理の原則は、民事訴訟においては、当事者の申立てをまって審判が開始され、その申立ての範囲を超えて審判することは許されないという建前であり(民訴法一八六条参照)、本件においては、本件山林の固定資産評価の当否の審査を超えた判断をしてはならないということになるわけで、本件審査決定は、この意味での不告不理の原則に反したものではないといわざるを得ない。原告の審査申出理由(2)(3)に対しては、被告は、本件山林の固定資産評価額の算定過程の概略を明示することによって、原告の主張を採用しないことを、黙示的に示しているものであって、本件審査決定を取り消さなければならない手続違反は存しない。

(三)  なお、前に判示したとおり、本件山林の平成三年度の固定資産評価額は、山林の距離による補正表(〔証拠略〕)によって比準割合が算定されたにもかかわらず、本件固定資産評価審査委員会は、固定資産評価基準別表第7に基づいて比準割合が算定されたものと誤解して、本件審査決定がなされたものと認められるが(〔証拠略〕)、右は処分の同一性を異にするような重大な事項ではなく、前者を適用する方が後者を適用するよりも原告に有利になるのであって、客観的には前者が適用されて本件山林の固定資産評価額が適法に算定されたものと認められる以上、右の錯誤は本件審査決定の取消事由とはなりえないものである。

(四)  よって、本件審査決定には理由不備ないし不告不理の違法はないものというべきである。

五  結論

以上の次第で、本件審査決定は適法であるから、原告の本訴請求を認容することはできない。

(裁判長裁判官 坂本倫城 裁判官 大段亨 藤田昌宏)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!